青と銀
アリアハンを出る時、私は正直戸惑っていました。
ワタリさんが「ついて来るな」と言ったのに対して、私は努めて冷静に対処したつもりですが…。
正直、あの突き刺すような青い目には閉口してしまいました。
勇者様についていくことは、ずっと前から決めていたことです。
そのために、私は生まれ故郷のダーマを出てアリアハンの大学に入ったんですから。
なのに、まさか待ち望んでいた勇者様が、こんなに人を拒絶する方だったなんて…。
でもね、こんなことがあったんですよ…
町を出ると、さわやかな新緑の香りがしました。
本当に、気候も穏やかでいい国なんですよね、アリアハンというのは。
私の生まれたダーマは高台にあって少し寒気が強かったので、アリアハンの温かい空気はとても気持ちが良かったです。
ところで、どんどん先に進んで行くワタリさんの背中を駆けるようにしてついていくと、早速モンスターが現れました。
スライムが一匹。
初戦にはもってこいの基本的なモンスターです。
まあ、当時の私たちにとっては、たかがスライム、されどスライムでしたけど。
私はとっさにこん棒を振り上げて身構えました。
ふとワタリさんを見て、私は驚きました。
ワタリさんはスライムに気付いているのに、剣を抜かないんですよ。
ただ、スライムと目を合わせて立っているだけです。
「ワタリさん、スライムですよ?」
私の言葉にも反応せず、ワタリさんは私に背を向けたまま、じっとスライムを見つめていました。
仕方無く私がこん棒を構えてスライムに駆け寄ろうとすると、ワタリさんが手を出して押さえました。
「…?」
私が足を止めると、ワタリさんはようやく口を開きました。
「やめてくれ。こいつは敵じゃない…」
明らかに敵意を剥き出しにしているスライムに、ワタリさんは歩み寄って手を差し出しました。
スライムは怯えたように震えながら、ワタリさんの顔を見上げています。
「…俺、子供だった時、何もかも嫌になってさ、無意味に町の外をぶらぶらしてたんだ。」
ワタリさんはそう言いながら屈み込むと、怯えているスライムを片手に乗せました。
「その時大ガラスに襲われた。…はっきり言ってたいした敵じゃなかったけど、一匹のスライムが寄ってきて、一緒に戦ってくれたんだ。弱いくせに、な。…だから、こいつらは敵じゃない。俺たちが攻撃するから、向かって来るだけなんだ…」
ワタリさんの顔は、こちらに背を向けているので見えませんでした。
ですが、怯えていたスライムがあのつぶらな瞳を取り戻したのを見て、きっと不機嫌な顔はしていないとわかりました。
「…そうなんですか。」
私はそれだけ言うと、こん棒を納めました。
ワタリさんはスライムを地面に置いてやると、何事も無かったように再び足を進めていきました。
話してしまったことに照れているのか、私の方を振り返りもせずに。
「ぷるぷる。」
スライムはそんなワタリさんの背中を、ずっと見つめていました。
「へぇ…あのワタリがね〜。」
ロビンの話を聞いて、ウィルが感心したような声をあげた。
今、勇者一行はダーマ神殿を出て、近辺の森の中を歩いている。
肌を刺すような冷たい空気の中、ロビンは歩きながらこの話をした。
「でも、あれ…」
そう言いながらユイが指差した方角には、目の下にクマを作った不機嫌そうなワタリが歩いていた。
微かに、「メタルスライム…」と言っているのが聞こえる。
ここ数日、ワタリは夜通しメタルスライム狩りに精を出しているらしい…。
出ては逃げ、出ては逃げるメタルスライムを、今血眼になって探している真っ最中だ。
ロビンは苦笑して頭を振った。
「たぶん…スライムとメタルスライムは別物なんですよ。」
そうだ、そういうことにしておこう。
タチバナさんのサイト「ロト日和」でキリ番1800を踏み、そして書いていただいたものです!素敵な小説ありがとうございます!
ちなみに、↓人物紹介はロト日和のものを参考に、管理人が勝手に書いたものです;
小説・登場人物の紹介
ワタリ(勇者・男)
英雄オルテガを父に持つ。そのために幼い頃から苦労をしてきた。
人付き合いが苦手で無愛想。魔王バラモスを倒すため旅をしている。
ユイ(武道家・女)
道具屋だった両親がバラモスによって殺されてしまい、復讐のため武道家になる。
素直で優しい美少女。
ウィル(盗賊・男)
変わり者の魔法使いの孫。
明るい性格で、パーティーのムードメーカー的存在。
ロビン(賢者・男)
修行をかさね、僧侶から賢者へと転職した。
真面目で丁寧なパーティーのまとめ役だ。